デザイン案の決定を多数決にしてはいけない理由

制作会社からデザイン案が届き、社内に回覧して「どれがいいですか?」と多数決で決める ——Webサイト制作の現場でたまに見かける光景です。

みんなの意見は大事に見えて、こうして生まれるのは「誰も反対しないが、誰にも刺さらない」という残念なデザインになりがちです。本記事では、なぜデザイン案の決定を多数決にしてはいけないかという理由と、では実際にどう決めれば良いのか、デザイン案の決め方とデザインフィードバックのコツについて、初心者のWeb担当者の方にもわかりやすく解説します。

目次

デザイン案を多数決で決めてはいけない理由

「みんなの意見を取り入れる」というのは、一見、調和を重視した叡智の集結のように見えますが、少なくともデザインを決定するという面では、マイナスに働きます。ここでは理由としては4つ挙げます。

選ばれやすいデザインを選びやすい

多数決に参加する人のほとんどは、決まったデザインに対する責任を負っていません。すると、自分の強い考えでA案に投票したのにB案が採用されると、まるで自分は他の人とズレていると思われそうで、自然と「みんなが選びそうな、否定要素の少ないデザイン」を選びがちになります。

このような考えが集結すると、多数決は、良いデザインではなく「選ばれやすいデザイン」を選ぶ仕組みになってしまうのです。狙いのある案・尖った案ほど票が集まらず、無難な案が残ります。

海外では、この構図は古くから「design by committee(合議制によるデザイン)」と呼ばれて問題視されてきました。意図の一貫性が失われ、無難化し、決定が遅れる——多くの人の手を経るほどデザインの質が落ちる、という指摘です(参考: Design by committee – Wikipedia)。

雰囲気だけで選ばれてしまう

投票する人は、サイトの目的やターゲットの詳細を共有されていないことが多く、仮に情報共有されていたとしても、企画から関わってきた担当者よりも理解はずっと浅くなります。理解が浅ければ、判断には個人の好みの影響が強くなり、「イラストの絵柄が好み」「この色が好み」といった雰囲気だけで選ばれてしまいやすくなります。ターゲットが30代女性のサービスなのに、投票者に50代男性が多ければ、50代男性の好みのデザインに決まりやすくなります。こうした現象は、多数決では普通に起こり得るのです。

全員が納得するデザインへ改悪される

多数決というのは、多くの人の納得を求めるものです。票で案が決まったあとも、少数側まで納得させようとして手が入り、その過程で、本来いちばん大切なはずのユーザーが置いてきぼりになります。

最悪なのが折衷案です。意見を出した人それぞれの「好き」の掛け合わせで「A案の色でB案の構成に」というやり方をしてしまい、キメラ(ギリシャ神話のライオンの頭とヤギの体、蛇の尾を持った怪物)のような不気味な構造が出来上がります。A案にはA案の、B案にはB案の、色と構成が噛み合った意図があります。折衷案は良いところ取りをしたつもりが、両方の意図を壊してしまう可能性も多々あるので要注意です。

結局は誰かが納得できない

多数決は、誰もが納得できる手法ではありません。多数にならなかった人は、納得できていないままです。そして担当者自身が多数側にならなかった場合、その後の修正指示の段階で自分の意見を反映させようとして、結局はデザインがキメラ化しやすくなります。「みんなで決めた」はずのデザインが、修正のたびに誰かの好みで揺れていくのは、このためです。

なぜ多数決になってしまうのか

多数決に流れてしまうのには、担当者側の事情があります。自分ひとりで決める責任を負いたくない。決裁者が「みんなで決めて」と言う。「みんなで決めた」は、社内的には説明しやすい。要するに、責任の分散です。

構造として理解しておきたいのは、デザインは責任を分散させるほど質が落ちる、ということです。多数決は担当者を守ってくれるように見えて、実際にはサイトの成果を守ってはくれません。

デザイン案のスマートな決め方

では、どう決めれば良いのか。ポイントは「誰が決めるか」「何で判断するか」「誰の意見を聞くか」の3つです。

決めるのは「誰か」を先に決める(責任者の一本化)

デザインの善し悪しを決める社内の責任者は、1人で良いです。デザインに対しては、その人が責任を持ちます。多くの場合、Web担当者がその責任者になるのが自然です。

責任者と承認者は分けて考えます。責任者は、サイトの目的と評価軸に照らして案を選び、周囲の意見を整理する人。承認者(代表や事業責任者)は、選ばれた案が事業の方針に反していないかを確認して最終承認する人です。承認者へデザインを提示する際、承認者からデザインに対してフィードバックが出ることはあります。その場合も、サイトの目的を踏まえたうえで、どのように対応すべきかを責任者がコントロールします。承認者の一声をそのまま制作会社に流すのではなく、目的に照らして責任者が承認者とも話をすり合わせ、責任者自身が理解し翻訳してフィードバックを伝える、ということです。

そのためにも、承認フロー(誰が責任者で、誰が承認者で、どの段階で見せるのか)は、デザイン案が届く前に決めておきましょう。

判断基準は「好み」ではなく「目的」

責任者が判断するときの基準は、好みではなく、サイトの目的です。評価軸の例を挙げます。

  • 情報としてターゲットに伝わるか:何の会社で、何を提供しているのかが、初見で伝わるか
  • 印象としてターゲットに伝わるか:ターゲットが「自分向けだ」と感じる雰囲気になっているか
  • 目的達成への導線が明確か:問い合わせ・購入など、サイトのゴールへの道筋が迷わず見えるか
  • プロとしての品質を担保できているか:素人っぽいデザインに感じないか(文字は読みやすいか、余白や要素に一貫性があるか、スマホで崩れていないか)

各案をこの評価軸で並べた比較表にすると、「なんとなく好き」の議論から離れられます。デザインの評価は、個人の好みやセンスではなく「目的を達成できる設計かどうか」で行う——これは制作の世界で広く共有されている考え方です。

デザインを見る目に自信がない場合

責任者といっても、デザインを見る目に自信がない方も多いと思います。その場合は、社内のターゲットに近いスタッフ(年齢や性別だけでなく、利用目的や知識量がターゲットに近い人)に意見を聞いてみましょう。その際には、サイトの目的なども踏まえながら、「これなら目的を達成できそうか?」「何の会社に見えるか」「問い合わせ先はすぐ見つかるか」といった視点で意見をもらうのが良いです。

その際に注意点が3つあります。

1つ目は、不特定多数から集めないこと。結果的に多数決のような結論に走りやすくなります。
2つ目は、1人だけに聞かないこと。できれば2〜3人のターゲットに近い人に聞きましょう。
3つ目は、意見を聞いても決断するのは責任者だということ。意見は判断材料であって、投票ではありません。

迷ったら制作会社に「狙い」を聞く

デザインには意図があります。なぜこの配色なのか、なぜこの構成なのか。迷ったら、制作会社に各案の狙いを説明してもらいましょう。そのうえで、その説明が適切に感じられるか、理解できるか、そしてサイトの目的・ターゲット・評価軸と整合しているかを踏まえて、責任者が判断します。プロの提案理由を聞かないまま多数決で決めてしまうのが、いちばんもったいないパターンです。

デザインはフィードバックで調整できる

デザイン案を選んでも、そこで終わりではなく、まだ調整は可能です。修正できる範囲や回数は契約と制作段階によりますが、デザイン案を選ぶというのは「方向性を選ぶ」ということです。「A案の方向で、もう少し●●な印象を強めたい」のようなフィードバックは、一般的にはアリです。

フィードバックを戻すときは、「こういうデザインにしてください」と指示するよりも、「●●をするために、△△を××にしてください」というように目的を添えるのがコツです。目的が伝わっていれば、その修正がデザインとして最適ではない場合に、制作会社が目的に沿った別案を用意してくれるのが一般的です。

  • 悪い例:「もっとおしゃれにしてください」「なんか違います」とだけ伝えて終える
  • 良い例:「初見で何の会社か分かるように、トップの写真を施工事例に差し替えてほしい」または「初見で何の会社か分かるようにしてほしい」「問い合わせに気づいてもらうために、ボタンをもう少し目立たせたい」または「お問い合わせボタンに気づきにくいように思う」

一方で、何か説明はできないんだけど違和感を感じるという場合は、そのまま伝えて良いです。
「ハッキリ説明できなければいけない」というのは、作り手側の傲慢です。担当者はデザイナーではありませんし、デザインの知識があるわけでもありません。的確に指摘できるわけがないのです。
とはいえ「なんとなくダメ」だけでは、制作側もどう修正すればいいのか見当がつきません。そういう時は、制作会社の担当者に相談してください。「説明はしにくいんだけど、何となくこんな風に感じる」に対して「こういう意味でしょうか?」というやり取りを重ねてクリアにしていくことが重要で、時には目的に立ち返りながら、その違和感は本当に解消すべきなのかという観点からもすり合わせていくことも必要です。

まとめ

多数決は公平に見えて、目的を見失う決め方です。デザイン案は、責任者を1人決め、好みではなく目的で評価し、意見は聞いても決定を委ねない。この3つで、無難で誰にも刺さらないデザインを避けられます。デザインは「みんなが好き」なものではなく「ターゲットに効く」ものを選び、選んだあとはフィードバックで目的に近づけていく——この進め方を、次の制作・リニューアルで活かしていきましょう。

制作会社の選び方はWeb制作会社の選び方・比較ポイント完全ガイド、リニューアルの進め方はホームページリニューアルの依頼方法ガイド【2026年版】で解説しています。Web担当の仕事を体系的に学びたい方はWeb担当者のガイドブックもご覧ください。

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この記事を書いた人

制作会社や広告代理店で勤務する中で、様々な大手企業の制作ディレクションなどを担当。2013年に独立しLab-ry Worksを立ち上げる。中小企業を中心にウェブサイトにおける総合サポートを行う。独立前の経緯により、現在も大手のウェブプロジェクトにも参画する。ウェブの戦略からサーバの手配まで、中小企業向けにコストを抑えながらも高品質で効果的なウェブサイトを支援する。

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