お金を払って制作をお願いしているのだから、成果も含めて全部やっておいてほしい。これは極端な例ですが、「お金を払った分、確実な成果を出してほしい」「Webのことはよくわからないから、良いようにやっておいてほしい」という気持ちで制作を依頼するケースは少なくありません。こうした制作依頼は、多くの場合、失敗やトラブルを招きます。本記事では、丸投げで実際に起こるトラブルと、それぞれの回避方法を、Web担当者の役割という観点から解説します。
「丸投げ」とはどういう事を指すのか
Web制作には様々な工程があります。丸投げとは、そのすべての工程を制作会社に任せてしまうこと、あるいは、本来は発注側が判断・対応すべき部分まで制作会社に実施させることを指します。「デザインはプロに任せる」のは丸投げではありません。但し、提示されたデザインの確認を怠り、適当に進めてしまう事は丸投げです。「何のために作るのか」「何を作るのか」「できたものを確認する」といった、発注側にしかできない判断まで手放してしまう状態が丸投げです。
Web制作の工程と分担
Web制作は概ね次のような工程で進みます。制作会社だけでは完結せず、どの工程にも発注側が対応すべきことがあります。
| 工程 | 担当 | 行うこと |
|---|---|---|
| 1. 目的・目標の整理 | 制作会社 | ヒアリングで整理を手伝う |
| 発注側 | 何のために作るのか、誰に何を伝えたいのかを決める | |
| 2. 要件定義 | 制作会社 | 要望を聞き取り、ページ構成・機能・範囲を要件にまとめる |
| 発注側 | 必要な機能や載せたい情報を出す。まとまった要件を確認して合意する | |
| 3. 見積・契約 | 制作会社 | 要件に基づく見積とスケジュールを契約条件とともに提示する |
| 発注側 | 見積金額、スケジュール、条件を確認したうえで、合意し契約する | |
| 4. 情報設計 | 制作会社 | サイト構成(サイトマップ)と画面の骨組み(ワイヤーフレーム)を作る |
| 発注側 | 必要な情報が入っているか、導線が目的に合っているかを確認する | |
| 5. 原稿・素材の準備 | 制作会社 | 必要な原稿・写真の一覧を出す。依頼があればライティングや撮影を行う |
| 発注側 | 会社の情報・商品説明・写真など、自社にしかない材料を用意する | |
| 6. デザイン | 制作会社 | デザイン案を作り、必要に応じて狙いを説明する |
| 発注側 | 好みではなく目的に照らして判断し、フィードバックする | |
| 7. コーディング・構築 | 制作会社 | Webサイトの構築や必要に応じて機能実装を行う |
| 発注側 | 途中の確認依頼があれば期限内に回答する | |
| 8. テスト・検収 | 制作会社 | 表示・動作を確認して修正する |
| 発注側 | 内容・表記・問い合わせの動作を自社の目で確認し、公開してよいか判断する(検収) | |
| 9. 公開 | 制作会社 | サーバへの反映と公開作業を行い、公開されたものに問題がないか確認する |
| 発注側 | 公開後に問題がないか確認する | |
| 10. 公開後の運用 | 制作会社 | 保守契約の範囲で更新・修正・障害対応を行う |
| 発注側 | 更新の主体を決め、アクセスの数字を見て改善を続ける |
作る作業は制作会社が担います。一方で、担当が発注側になっている判断・情報の提供・確認は、制作会社が代わることができません。原稿作成や更新作業のように委託できるものもありますが、自社の情報が正しいかの確認と、何を優先するかの判断は発注側にしかできないためです。作業を任せることと、判断を任せることは別です。
丸投げで起こるトラブル
上記の工程で、本来は発注側が管理すべきところを制作側に委ねてしまうと、次のようなトラブルが発生し得ます。
トラブル1:作りたかった機能が網羅されていない
制作会社からの仕様確認を任せてしまうと発生します。要件定義の段階で、制作側が必要な機能を網羅的に提示することはできません。要件定義は、制作会社がヒアリングをしながら、発注側の業務や目的に合わせて必要なものをすり合わせていく場です。ここを「そちらで良いように決めてください」といい加減に済ませてしまうと、「お問い合わせフォームはあると思ったのに」「予約はサイトで受け付けられると思っていた」といったすれ違いが生じます。
公開間際になって気づいても、その時点で追加すると、費用も工期も追加になります。
トラブル2:思ってもいないデザインになってしまう
デザインの食い違いはデザイン時に発生すると思われがちですが、デザインのすれ違いの多くは、情報設計、画面構成、そもそもの目的の共有時に、適当にやり過ごしてしまうと発生します。ワイヤーフレームやデザイン案の確認を「まだ出来上がっていないもの」として軽く見てしまうと、デザインとして重要な「自社が何を強みにしていて」「どの情報を目立たせたいのか」という要素が曖昧になってしまい、本来のデザインとして欠落したものになってしまいます。
そのまま適当に進めてしまえば、公開直前に「うちの雰囲気と違う」「いちばん見せたいサービスが下のほうにある」となってしまって、デザインをやり直そうとすると大きな手戻りになります。
トラブル3:スケジュールが曖昧になってしまう
都度の状況変更などの報告や確認を、制作会社任せきりにしてしまうと発生しがちです。途中で要件などに調整が入ったり、提供すべき素材や情報が期限までに提供できなければ、制作側としてはスケジュールが変わることは当たり前のことです。本来なら、そういう状況になれば制作側から報告や相談が発生しますが、「やっておいて」という曖昧な指示になってしまうと、制作側は「公開が遅れる前提でやっておく」判断をしてしまいかねません。
展示会やキャンペーンに合わせて公開したかったのに間に合わない、というのが大きなトラブルになる典型例です。スケジュールは遅れているけれど、最終的には公開日に合わせてもらえるだろうと思っていたら、実際には遅延した分だけ公開が遅れる前提になっていて、重要な日に間に合わなくなる、というトラブルはあります。
トラブル4:よくわからないけど成果が上がらない
サイトを作る目的や、目的を実現する手段を、自社の戦略に照らし合わせながら制作会社と詰めていないと発生します。「問い合わせを増やしたい」とだけ伝えて、誰に、何を、どう伝えて問い合わせに至ってもらうのかを詰めていないケースです。
また、成果はWeb単体で行われるものではなく、Webへの流入をどのように促すのか、製品やサービスのブランド認知施策はどうなっているのかなど、Web以外の要素も連動しながら、WebはWebの目的をもって達成に向かいます。
ただ「Webサイトを作っておく」という安易な発想では、Webサイトの成果を上げることは非常に難しく、よくわからないまま「このWebサイトは成果が上がらない」という雑な結論に至ってしまいがちです。
制作会社は自社の事業戦略の主体ではありません。目的やその他の関連施策が曖昧なまま作られたサイトは、ただ存在しているだけで、そのパフォーマンスを発揮できないものになってしまいます。
もし目的と目標、関連する施策が分かっていれば、公開後に、仮に思うように数値が上がっていなかったとしても、アクセス解析の数字を見て改善する事ができます。分析の考え方はWebサイトは分析しないと損をする。理由と分析方法で解説しているのでご参照ください。
トラブル5:想定費用に収まらなくなる
初期の見積条件を曖昧なままお任せにしてしまうと発生します。見積は、要件定義で決めた仕様を前提に出されています。制作中に仕様の調整が入れば、見積の前提も変わります。どの調整が見積の範囲内で、どの調整が範囲外なのかを把握しないまま「やっておいて」と進めてしまうと、追加費用が積み上がっていることに、請求の段階で初めて気づくことになります。
トラブル6:公開後の更新ができなくなる
公開後の対応契約などを曖昧にしてしまうと発生します。公開後に誰が更新するのかを決めていないと、「お知らせを1件足したい」だけでも制作会社に見積を取ることになります。逆に、自社で更新するつもりだったのに、更新しにくい作りになっていて自社では対応できない、ということも起こります。
さらに見落としやすいのが、ドメイン・サーバ・各種ツールのアカウントの所有です。お任せにしていたことで、ドメインやサーバの名義や管理権限がすべて制作会社になっていて、管理費が割増し価格で発生し続けたり、他の業者に変更したいときに、サーバを譲渡してもらう事ができないような場合もあります。
なぜ丸投げになってしまうのか
丸投げになるケースには、次のようなパターンがあります。
ケース1:丸投げに対応している制作会社がある
企業と担当者の関係性や制作内容によっては、丸投げでも成立することがあります。長年の付き合いで事業内容を熟知している制作会社であれば、「いつもの感じで」で通じます。前回と同じ仕様で作り直す増刷のような案件なら、目的も内容も共有済みなので、細かな確認がなくても大きく外れません。
その成功例を前提にして、「A社は丸投げでもやってくれた」という理由から、別の会社や別の案件でも丸投げしてしまうことがあります。前提が違えば、同じやり方は成り立ちませんし、属人的な対応なのでそもそもあまり健全だとは言えません。
ケース2:制作会社に結果のみを求めている
まるで社内の部下にやらせるように、制作会社にも指示してしまうケースです。部下なら、日々の会話で社内の事情や優先順位を共有しています。制作会社は社外の存在であり、判断に必要な情報を持っていません。部下と同じように自己判断に委ねると、判断の材料がないまま作られ、結果として丸投げになります。
ケース3:よくわからないからやっておいてほしい
Web制作は、HTMLやJavaScriptといった技術の話が出てくるため、知識のない方には苦手意識を持ちやすい分野です。その苦手意識から、本来は自社で判断すべきところまで手放してしまい、結果として丸投げになることがあります。
丸投げのトラブルを回避する方法
丸投げによるトラブルを回避するために、Web担当者の役割として意識しておきたいのは次の3つです。
工程に沿って対応すべきことは対応する
各工程には、発注側が対応すべきことがあります。そして、合意は確認の都度必要になります。先ほどの工程表で担当が発注側になっているものは、制作会社に代わってもらえない判断と確認です。トラブルとの対応で言えば、次のようになります。
| 発注側が対応すべきこと | 回避できるトラブル |
|---|---|
| 要件定義のヒアリングで、業務や目的に合わせて必要なものをすり合わせる | トラブル1:機能が網羅されていない |
| 情報設計・デザインの確認で、目的に照らして判断する | トラブル2:思ってもいないデザイン |
| 確認依頼に期限内に答え、原稿・素材を予定どおりに出す。遅れや変更が出たら公開日への影響を確認する | トラブル3:スケジュールが曖昧 |
| 目的・目標を自社の戦略に照らして制作会社と詰め、自社で判断する | トラブル4:成果が上がらない |
| 仕様の調整が見積の範囲内かどうかを、その都度確認する | トラブル5:想定費用に収まらない |
| 公開後の更新の主体と、ドメイン・サーバ・アカウントの所有を決めておく | トラブル6:公開後の更新ができない |
責任の所在を理解する
各確認に合意するということは、その状態を認めるということです。後になってから「そういう事だとは思わなかった」と言っても、主張は平行線になります。丸投げするということは、各確認をまとめて合意してしまっているのに等しい状態です。制作会社は、合意を得た内容に基づいて作業を進めます。「任せた」は「認めた」と同じ意味になると理解しておくことが、丸投げを防ぐ出発点です。
分からない事は聞く
経験の浅い制作会社ほど、専門家でなければ理解できないような内容まで、そのまま確認を取ろうとします。だからといって、わからないまま合意してしまうと、やはりトラブルになります。このような場合は、「もっとわかりやすく説明してほしい」「要するにどういうことなのか」「メリットとデメリットは何か」と質問してください。
制作側には説明責任があります。発注側が判断できる形で説明するのは制作会社の仕事であり、その説明がなされないのであれば、制作側が責任を放棄していると言えます。わからないことを聞くのは恥ずかしいことではなく、Web担当者の役割そのものです。
丸投げできる依頼
丸投げは絶対的な悪ではありません。通常の制作契約が「丸投げ」に対応していないだけです。
成果報酬型やレベニューシェア(売上の一部を分配する契約)のような形であれば、丸投げでも対応を請け負うケースはあります。制作会社が企画から運用まで主体となって進め、その代わりに、売上の何割かを常に支払い続けることになります。分配の割合や期間は契約で決まります。
ただし、成果報酬型の場合、制作会社側からすると製品が売れる保証がないため、なかなか契約しにくいことも理解しておく必要があります。誰でも選べる選択肢ではなく、商品やサービスに見込みがあると制作会社が判断した場合に成立する契約です。
まとめ
丸投げできるかできないかは、契約次第です。ただし、通常の制作依頼の場合、丸投げすることはできません。制作依頼というのは、自社でマーケティングする前提で、Webを制作する部分を依頼するものです。その制作内容に対しても、自社で責任をもって管理することが大前提になります。
とはいえ、Web担当者に求められているのは技術の知識ではありません。目的を決める、要望を出す、確認に答える、わからないことは聞く。この役割を担うことで、制作会社の力を引き出し、狙いどおりのサイトに近づけていけます。制作会社の選び方はWeb制作会社の選び方・比較ポイント完全ガイド、リニューアルの進め方はホームページリニューアルの依頼方法ガイド【2026年版】で解説しています。Web担当の仕事を体系的に学びたい方はWeb担当者のガイドブックもご覧ください。
