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第4章 Lesson 4-1 / 読了 約13分

良いデザインとは何か — 「印象 × 行動」で評価し、主観はユーザー視点に置き換える

この記事でわかること

  • 「良いデザイン」の 1 文の定義
  • 評価の前提となる基礎品質(アクセシビリティ・読みやすさ・性能ほか)
  • デザイン評価で持ってはいけない 3 つの軸
  • 主観を「ユーザー視点」に置き換えて伝える方法
  • 「キメラデザイン」を防ぐために最初に決めておくこと

第 4 章はデザインの章です。 多くの担当者が「デザインの話になると主観で揉める」と困っています。 本書は主観を排除しません。 でも、主観を語る前に「目的に照らす」枠組みを持つこと、そしてその主観を「ユーザー視点」に変換してから語ることを徹底します。 この Lesson は、その出発点になります。

1. 「いいデザイン」を 1 文で定義する

1-1. 本書版の定義

本書での「いいデザイン」の定義は、これです。 「ユーザーに与えるべき印象を与えられて、目的に則した行動をとってもらえるような設計」。 少し長いので、二度読み返してみてください。 Lesson 1-1 で見た「Web コミュニケーションの管理」という担当者の役割を、デザインの言葉に置き換えたものです。

1-2. 2 つの要素

定義の中身は、2 つの要素に分解できます。

  • 印象(感情・ブランディング):信頼 / 安心 / 専門性 / 革新性 / 親しみ
  • 行動(機能・CV):問い合わせ / 購入 / 応募 / 閲覧

印象だけでは行動が起きないし、行動だけでは信頼を作れません。 両方が揃って初めて「良い」と言えます。

1-3. 評価軸のおおもとは Lesson 2-1 の「4 つの問い」

Lesson 2-1 で言語化した「誰に・何を・どう感じて・どう行動してほしいか」は、そのままデザインの評価軸になります。 「どう感じてほしいか」が印象、「どう行動してほしいか」が行動。 企画段階で言葉にしたことを、デザインという形で実装していく流れです。

1-4. 「印象 × 行動」を下支えする基礎品質

「印象 × 行動」は本書の 主軸の評価軸 で、揺るがしません。 ただし、「印象 × 行動」が成立するためには、行動以前の基礎品質が前提として満たされている必要があります。 基礎品質が崩れると、ユーザーは「印象」を持つ前に離脱しますし、「行動」する手前で詰まります。

基礎品質は、評価軸の前提条件として次の 5 つを意識しておきたいところです。

  • アクセシビリティ:見えない・押せないでは、一部のユーザーに印象も行動も生まれません(Lesson 4-5 で詳述)
  • 読みやすさ:文字サイズ・行間・コントラストが崩れていると、印象を持つ前に離脱されます
  • 性能(表示速度):表示が遅いだけで、特にスマホでは印象を持つ前に離脱されます
  • 保守性:作りが雑だと、長期運用の中でデザインが継ぎ接ぎになっていきます
  • CMS 更新時の崩れにくさ:運用フェーズの更新で印象が壊れない作りかどうか(Lesson 4-3 で詳述)

これらは「印象 × 行動」を 評価する以前 にチェックする土台です。 デザインレビューの順序は、まず基礎品質チェック(アクセシビリティ・読みやすさ・性能・保守性・CMS 更新の崩れにくさ)、その上で「印象 × 行動」をレビュー、という二段構えです。 基礎品質が崩れているのに「印象 × 行動」を細かくレビューしても、根本問題が解決しません。

担当者の役割分担は、基礎品質のチェックは業者依頼(専門領域、Lesson 4-2 / 4-5 で扱う)、「印象 × 行動」の判定は担当者、と切り分けます。

2. デザイン評価で持ってはいけない 3 つの軸

良いデザインの定義の裏返しとして、評価軸に持ち込んではいけないものを並べます。 どれも、現場で頻繁に出てくる軸です。

2-1. 「自分の好み」

主観の最たる罠です。 担当者個人の好みは、ターゲットの好みとは無関係です。 自分の好みで評価し始めると、デザインが個人趣味に着地してしまいます。

2-2. 「他社がかっこいい」

他社の目的と自社の目的は違います。 他社のかっこよさは、他社のターゲットに最適化された結果です。 自社のターゲットには合いません。

2-3. 「業界の流行」

流行を追うことは目的ではありません。 流行に乗ったデザインは、半年後には古く見えます。 流行ではなく、目的に合うデザインを選びたいところです。

これらに共通するのは 「目的とつながっていない」 ことです。 どの軸も、Lesson 2-1 の「4 つの問い」と切れています。 目的に紐付かない評価軸は、思い切って手放してしまいましょう。

3. フィードバックは「ユーザー視点」に変換して語る

3-1. そもそも主観でコメントしない

デザインフィードバックの大原則です。 担当者の好みは語らないようにしたいところです。 「私は嫌い」「私はこっちが好き」は、業者にとって最も困るコメントになりがちです。

3-2. 主観だとしても「ユーザー視点に立った目線」に変換

でも、感じた違和感を飲み込めとは言いません。 違和感は語ってください。 ただし、「ユーザー視点に立った目線」 に変換して語ります。 「私は嫌い」を「うちのターゲット(30 代女性)には響かないと思う」に置き換える、という具合です。

3-3. 「ユーザーに目的を達成させるためのデザインを求める」

全コメントの軸はここです。 自分の好みではなく、ユーザーが目的(行動)を達成しやすいかどうか。 この軸で語れば、業者は動きやすくなりますし、議論も建設的になります。

3-4. NG / OK フィードバック対比 5 セット

具体例で見るのが一番わかりやすいです。

  • NG「色が暗い」 → OK「うちのターゲット(30 代女性)には、もう少し明るい印象が必要」
  • NG「ボタンがダサい」 → OK「CV ボタンがファーストビューで目立ちにくい、目的(問い合わせ獲得)に対して弱い」
  • NG「フォントが好きじゃない」 → OK「自社のブランドトーンは安心感、このフォントは硬すぎる」
  • NG「もっと派手に」 → OK「ターゲットが情報量を求めているので、もう少しコントラストが欲しい」
  • NG「写真がイマイチ」 → OK「写真からの『信頼感』がペルソナに届くか心配」

4. 「キメラデザイン」を防ぐ — 最初に決定権者を明確に

4-1. キメラの典型

デザインの議論を経て、最終形が「ちぐはぐ」になることがあります。 社長は「赤を入れたい」、上司は「モダンに」、現場は「親しみを」 — それぞれの意見を平等に反映した結果、どれも中途半端な「キメラ」状態が完成します。 これは現場で何度も見るパターンです。

4-2. 原因

キメラが生まれる原因は明確です。 決定権者が明確でない。 全員の意見を平等に反映しようとして、何も決めきれない。 結果として、誰の意見も完全には通らない、誰にも刺さらないデザインが出来上がります。

4-3. 防ぎ方は「最初に決め方を決める」こと

キメラの防ぎ方は、Lesson 2-1 で目的を関係者と合意したときと同じ。「決め方」を先に決めておくことです。

  • 最初に「誰が決めるか」を明確にする(プロジェクト責任者 or 最終決定者)
  • 他部門は「意見を言う」だけ、決定はしない
  • 各意見はフィルター(目的に貢献するか)してから決定者へ

意見を集めることと、決定することを分ける。 これがキメラ防止の基本構造です。

4-4. デザインレビュー会議の設計

レビュー会議には、これらのルールを組み込んでおくとうまく回ります。 参加者を絞る、意見と決定を分ける、進行役を立てる。 特に進行役は、「これは意見ですね、決定は後ほど」と適切に流す役を担います。

4-5. 「私の意見は通らなくてもいい」を全員が合意してから始める

レビューを始める前に、全員でこう確認しておきたいところです。 「私の意見は通らなくてもいい、ただ目的のために意見は出す」。 この合意があるとないとで、議論の進み方が大きく変わります。 意見が通らなくても納得できる文化、これがキメラ防止の出発点です。

5. デザインを「目的に照らして」評価する 5 つの問い

実務でデザインを評価するときに、頭の中で通すべき 5 つの問いです。 どのデザインカンプ・どのレビュー会議でも、この 5 問を通すようにしておくと安心です。

  • ターゲットに与えたい印象を与えているか
  • ターゲットが取ってほしい行動が明確か
  • ファーストビューで主軸が伝わるか
  • CV 動線が自然に目に入るか
  • ブランドトーンと一致しているか

テンプレ DL:デザインレビュー 5 問チェックシート(本書のテンプレ集に収録予定)

6. 業者・デザイナーが動きやすいフィードバックの書式

6-1. 「箇所」→「現状」→「気づき(ユーザー視点)」→「方向性」

フィードバックは、この 4 段構成で書くと業者が動きやすくなります。 結論を押し付けず、判断はデザイナーに委ねる構造です。

6-2. 書き方の例

実例で見ると、こうなります。

「[トップ KV] 写真の表情が硬い → ターゲットが安心感を求める層なので、もう少し柔らかい表情の方がいいかも → 別案を提示してもらえますか?」

箇所(トップ KV)、現状(写真の表情が硬い)、気づき(ユーザー視点で安心感が求められる)、方向性(別案の提示依頼)。 これだけで、デザイナーは次の一手を考えられます。

6-3. 「変えて」ではなく「再提案して」

最後の方向性で「変えて」ではなく「再提案して」と書くのがコツです。 「変えて」は指示、「再提案して」は依頼。 デザイナーに考える余地を残すことで、もっと良いアイデアが出てきます。

7. 避けたい NG フィードバック集

  • 「もっとイケてる感じで」:具体性がなく、デザイナーは動けません
  • 「全部やり直してください」:根拠のない全否定は、信頼関係を壊します
  • デザインデータに直接、修正指示を書き込みまくる:デザインは担当者の作業領域ではありません
  • 「次までに直しておいて」:何を・なぜ・いつまでには、伝える側の責任です

デザインの良し悪しは、センスではなく「目的に照らせるか」で決まります。 印象 × 行動という 1 本の物差しさえ手元にあれば、主観で揉めそうな場面でも落ち着いて舵を取れます。 最初から完璧に判断できなくて大丈夫です。 まずは目の前のデザインを 5 つの問いに通してみるところから、少しずつ慣れていきましょう。