業者比較表の作り方 — 信頼性とやりやすさに重みを置き、人 × は避ける
この記事でわかること
- 比較表の役割と、最終決定を人が下す理由
- 「信頼性 × やりやすさ」を最重要に置く考え方
- 主観を排除せず「主観 + 社内合意」で扱う進め方
- 提案と人がズレたときの選び方
第3章 Lesson 3 で見積もりの読み方を整理しました。 この Lesson は、複数業者の提案を比較して、最終的に 1 社を選ぶまでの方法論です。 スコア表を作ること自体は良いやり方です。 ただ、スコアの最高点で機械的に決めてしまうと、大事なものを見落とします。 何に重みを置き、主観をどう扱い、最後にどう決めるか — 実務でそのまま使える形で整理していきます。
1. 業者比較の出発点 — スコア化はツール、最終は人が決める
スコア化は否定しない
数字でのスコアリングは、否定しません。 公平性を見せる整理ツールとして有効です。 特に社内に複数の関係者がいるとき、「なぜこの業者を選んだか」を説明する材料として役立ちます。
最終判断は人で
ただし、スコアが最高の業者を機械的に選ぶ のは避けたいところです。 スコアは判断の参考、最終判断は人が下します。 スコアと違う業者を選ぶことがあっても、それは「不公平」ではなく「人の判断」です。
比較表は「議論のたたき台」
比較表は、議論のたたき台として使います。 シートをそのまま結論にすると、本質を見逃します。 数字の上下だけでなく、「なぜそのスコアか」「総合的にどう感じるか」を話し合うのが、比較会議の本来の姿です。
2. 「信頼性 × やりやすさ」に重みを置く
他の軸より重要な 2 つ
評価軸はいろいろありますが、最も重みを置くべきは 信頼性 と やりやすさ(話しやすさ) です。 この 2 つに、他の軸より重みをかけておきましょう。
なぜ重要か
理由は明確です。 デザイン・技術・費用・実績が優れていても、信頼を欠いていたり、やりにくい相手では良いものはできない からです。 Web 案件は長期で組む仕事です。 信頼と話しやすさが基盤になっていないと、技術力もデザイン力も活きません。
比較表の重み付け(本書版)
本書が推奨する重み付け(重要な軸ほど点数に強く反映させること)の目安です。
- 信頼性・話しやすさ:重み 3〜4(最高)
- Why(なぜ作る・直すのかという目的)への提案の質:重み 3
- 実績・スキル:重み 2
- デザイン・技術:重み 2
- 費用:重み 1〜2(最後の調整項目)
「信頼性」をどう測るか
信頼性は感覚論ではなく、具体的な観点で測ります。
- 過去案件の様子(納期遅れやトラブルが起きたとき、どう対応したかを聞く)
- レスポンス速度(連絡してから返事までの時間)
- 契約・支払い対応(請求書の発行、入金確認の対応)
- 社内体制の透明度(誰が何をするかが見える)
「やりやすさ」をどう測るか
やりやすさの見方は、第3章 Lesson 1 の「話しにくいを見逃さない」と同じです。 オンライン面談での違和感の有無、説明の分かりやすさ、質問に嫌な顔をせず答えてくれるか、議論に前のめりになってくれるか — このあたりが判断材料になります。
3. 主観を「排除」せず、社内合意で扱う
「主観排除」は無理筋
業者選定で「主観を排除して数字だけで決めよう」という発想は、無理筋です。 人が業者を選ぶ以上、主観は必ず混ざります。 主観を無理に排除しようとすると、「数字に出る根拠」だけで判断することになり、かえって判断材料が狭くなります。
主観でも OK、ただし社内合意を取る
本書のスタンスは、主観でも OK、ただし社内合意を取る です。 主観を出すことを許容するけれど、担当者一人の判断にはしません。 複数人で主観を出し合い、すり合わせて社内合意することで、判断の質を担保します。
主観を言語化する
主観を扱う最初のステップは、言語化です。 「なんとなく好き」「なんとなく嫌」を、もう一段具体的な言葉に変換してみましょう。 「過去に似たタイプの業者で成功したから、安心感がある」「直感的に話しにくそうに感じた、理由は説明が回りくどいから」 — このように、感覚を言葉に落とします。
複数人で主観を出し合う
複数人で主観を出し合うと、ずれが見えてきます。 そのずれが、議論を深める材料です。 「A さんはこの業者を推すけど、B さんは違和感を持っている」 — ここから本質的な議論が始まります。
「私はこの理由でこの業者を推す」を全員が言える状態
全員が「私はこの理由でこの業者を推す」と言える状態が、社内合意の出発点です。 決まったあとで「実は反対だった」が出てこないように、判断の手前で意見を出し切ります。
4. 比較表の作り方(本書版)
評価軸を提案を見る前に決める
評価軸は、提案を受領する前に決めておきましょう。 後付けで軸を変えると、主観バイアスが入ります。 「気に入った業者に有利な軸を後から足す」が起きやすいので、ここは先に固めておくのが安心です。
重み付けを Why に合わせる
先ほど示した重み付けは、あくまで目安です。 自社の目的・KGI(最終的に達成したい目標)に合わせて重みを微調整してみましょう。 たとえばリニューアル案件なら「信頼性」の重みを上げ、新規 LP(1 ページ完結の販促ページ)なら「Why への提案の質」を上げる、というような調整です。
4 段階評価 + メモ
評価は ◎ ○ △ × の 4 段階でシンプルに。点数は ◎=4・○=3・△=2・×=0 と決めておきます。 細かすぎる評価軸は判断が分散しやすいので、4 段階 + 各評価のメモ(なぜそう判定したか)を残すのがおすすめです。後で「なぜこの点か」を説明できます。
重み × 評価 = スコア
各軸の「重み」と「評価の点数」を掛け算して、合計スコアを出します。1 社分を記入すると、次のようになります。
| 評価軸 | 重み | 評価 | 点数 | スコア | メモ |
|---|---|---|---|---|---|
| 信頼性・話しやすさ | 4 | ○ | 3 | 12 | 返信が早く、体制説明も明確 |
| Why への提案の質 | 3 | ◎ | 4 | 12 | 問い合わせ増という目的に沿った改善案 |
| 実績・スキル | 2 | ○ | 3 | 6 | 同業種の制作経験あり |
| デザイン・技術 | 2 | ◎ | 4 | 8 | 提案デザインの完成度が高い |
| 費用 | 1 | △ | 2 | 2 | 予算より少し高い |
| 合計 | — | — | — | 40 | — |
ただし、この合計スコアは あくまで参考 です。数字の高い順に機械的に決めず、議論のたたき台として使います。
評価者は 2〜3 人にする
1 人で評価すると主観に偏るので、担当者 + 上司 + 他部門の 2〜3 人で評価します。 具体的な人選と進め方は、後の「6. 評価者を複数人にする」でまとめて扱います。
テンプレート:業者比較スコアシート(信頼性重み版)
5. 提案と人がズレた時の助言 — 「人 ×」だけは避ける
人を 3 段階で見る
人(=やりやすさ・話しやすさ)を ◎ ○ × の 3 段階で見ます。 ◎ は「ぜひこの人と組みたい」、○ は「許容範囲」、× は「組みたくない」。
ケース A:「提案◎・人○」と「提案○・人◎」
どちらの組み合わせも OK です。 迷ったら、提案◎・人○ を選びましょう。 人が「許容範囲」なら、提案の良さで進めるほうが、案件として良い結果になりやすいです。
ケース B:「提案◎・人×」と「提案○・人◎」
こちらが本書からの強いメッセージです。 後者の 提案○・人◎ を選びましょう。 提案がいくら良くても、人 × だと長期協業で負担が大きくなりやすいからです。
「人 ×」は絶対に避ける
「人 ×」評価が一つでも入ったら、その業者は候補から外すのが無難です。 提案がどれだけ素晴らしくても、組めない人とは組めません。 制作中に、どこかで無理が出てきてしまいます。
「提案を後からブラッシュアップ」は人があれば可能
人が ◎ なら、制作中に提案をブラッシュアップさせることが可能です。 話しやすい関係性があるので、要望を伝え、修正を依頼し、共に磨いていけます。 人が × だと、何も改善できません。 依頼の往復だけで疲弊します。
6. 評価者を複数人にする
構成例
評価者の構成は、担当者 + 上司 + 他部門(マーケ・営業など)が現実的です。 部門が違うと評価軸の重み付け感覚も違うので、議論が深まります。
評価者ごとにシートを記入してから集計
議論を始める前に、各評価者が独立してシートを記入しておきましょう。 最初から相談すると、声の大きい人の評価に引っ張られがちです。 独立評価 → 集計 → 議論、の順序を守るのがおすすめです。
評価のばらつきこそ議論の材料
評価者間でスコアがばらつくのは、悪いことではありません。 むしろ、ばらつきこそ議論の材料です。 全員一致のときも、理由をひとこと確認しておくと安心です。 「なぜ評価がばらけたか」を語り合うのが、比較会議の本質です。
7. 比較会議の進め方
ここまでの考え方を、会議の進行に落とすと次のようになります。
- 評価シート提出 → 集計 → 議論の順序
- 「なぜその点数か」を全員で説明する
- スコア最高を選ぶのではなく、合意で選ぶ
- 「人 ×」評価が 1 人でもいたら、なぜかを深掘りする
8. 選定後のフィードバック(補足)
選定後は、選んだ業者には選定理由を、選ばなかった業者にも簡潔に理由を 伝えましょう。 「Why への理解が一番深かった」「人の感じが良かった」など率直に伝えると、選んだ側は期待値を共有した状態でスタートできます。 選ばなかった側にも一言添えておくと、次回案件の候補として残せる関係が保てます。無言で連絡を絶つのは、業界内での評判にも関わります。
比較表は、迷いを整理して「なぜこの業者を選んだか」を言葉にするための道具です。 完璧なスコアを目指すよりも、信頼性とやりやすさに重みを置き、最後はチームで納得して選ぶ — その流れを一度回してみれば、選定はぐっと楽になります。 最初から上手に作れなくて大丈夫です。一案件ごとに、自社に合う重み付けを育てていきましょう。