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第3章 Lesson 3 / 読了 約13分

見積もりの読み方と相場感 — 全体の妥当性で見る

この記事でわかること

  • 見積もりで本当に見るべきもの
  • 項目別の値引き要求がなぜ買いたたきになるのか
  • Web制作の相場感と、その正しい使い方
  • 「あまりにも安い見積もり」に隠れているもの

第3章 Lesson 2 で RFP を送り、業者から提案と見積もりが届きました。 この Lesson は、その見積もりをどう読むかの話です。 現場でよく見かける「見積もりを項目ごとに比較する」やり方に、本書ははっきり反対の立場を取ります。 なぜ反対なのか、代わりに何を見ればよいのかを、順に整理していきます。

1. 見積もりを読む出発点は「全体費用の妥当性」

「項目を細かく分解して比較」は本質ではない

各社の見積もりを並べて、項目の金額を 1 行ずつ見比べる。 多くの担当者がやってしまう方法ですが、実はこれ、比較として成立していません。 見積もりの書き方は業者ごとに違います。 項目の分け方も、項目名の付け方も、どこまでを一つの項目に含めるかも、会社によってバラバラ。 形式の違うものを行単位で見比べても、正しい答えは出てこないのです。

見るべきは「作りたいものに対する全体費用の妥当性」

では何を見るか。 「作りたいものに対して、総額が妥当かどうか」 です。 RFP に書いた目的と KPI(目標と、その途中指標)を思い出しながら、総額の妥当性を、次の 4 点で見ます。

  • RFP の目的に合った提案になっているか
  • 含まれる作業範囲(スコープ)は十分か
  • 公開後の運用・保守の負担は現実的か
  • 社内予算に対して、期待できる効果が見合うか

この 4 点を基準にすると、「この金額を払う価値があるか」を落ち着いて判断できます。

中身の細かな項目は参考

項目をまったく見るな、という話ではありません。 気になる項目があれば、遠慮なく質問して構いません。 ただし質問の目的は「内容を理解すること」であって、「安くさせること」ではない — ここだけは踏み外さないようにしましょう。

2. 項目単位で値切らず、中身は「資料と質問」で確認する

項目だけを根拠に値下げを求めない

「この項目の 30 万円は高い、もっと安くできるはず」——項目だけを取り上げて値下げを求めると、業者には単なる値切り要求として受け取られ、関係がぎくしゃくします。 第3章 Lesson 1 の「上から目線で買いたたかない」が、いちばん起きやすい場面がここです。 そもそも見積書から「正確な項目別費用」を取り出すことはできないので、総額の妥当性で判断する と最初に決めてしまうのが現実的です。

同じ項目名でも、中身の範囲は業者ごとに別物

A 社の見積もりには「コーディング 50,000 円」、B 社には「コーディング 20,000 円」。 一見 B 社が安く見えますが、A 社の「コーディング」にはサーバへの反映・修正対応・細かなデザイン調整まで含まれ、B 社は純粋なコーディングのみで残りは別料金、ということが普通にあります。 項目名が同じでも中身は別物なので、比較するなら項目ではなく 総額 × スコープ範囲 で見ます。 そもそも「コーディングの単価が適正か」を測る相場データは中小企業にはないので、項目の精査は最初から機能しません。

中身を知りたいときは、見積書ではなく資料・質問で

作業の中身を知りたいときは、金額の書かれた見積書を突くのではなく、別経路で確認します。 提案書の該当ページ、見積もりの補足資料、過去案件の作業内訳など、説明のための資料をお願いする・相談する・質問する。 「ここはどこまでやってもらえますか?」「素材費は含まれていますか?」と、疑問は事前にすべて聞いて、答えを書面に残しておきましょう。 金額の上で説明を求めると、どうしても「値引き交渉の入口」に見えてしまうからです。

社内ルールで項目別金額が必要なら、RFP で型を指定する

社内ルールなどでどうしても項目別の金額が必要なら、RFP の段階で「この項目構成で見積もってください」と型を提示しておくのが筋です。 提案が出てから「もっと細かく書き直して」と求めるのは、業者に二度手間をかけるだけです。 なお、型を揃えても、全体管理費のような分けきれない工数は必ず残ります。

3. Web 制作の「相場感」は幅が広い

制作内容別の一般的な費用感(目安)

あくまで目安ですが、相場の感覚を持っておくと、総額の妥当性を判断する助けになります。

  • LP(1 ページ完結の販促ページ):30〜100 万円
  • コーポレート小規模:50〜150 万円
  • コーポレート中規模:150〜500 万円
  • EC(ネットショップ):200 万円〜
  • オウンドメディア:100〜500 万円
  • Web サービス / SaaS(会員・ログイン機能を持つサービス):500 万円〜

同じ種類でも、ページ数・原稿作成の有無・撮影の有無・CMS 導入の有無で金額は大きく動きます。表の数字だけで「高い / 安い」を決めないようにしましょう。

業者により幅が広い

同じ内容でも、業者によって金額が 5 倍違う、ということが実際にあります。 地域、会社の規模、ブランド力、専門領域、そのときの繁忙度、利益方針 — さまざまな要因が価格差を生むためです。

やり方によっても変わる

作り方の選択でも、価格は大きく動きます。 WordPress(代表的な CMS)の既存テーマを活かすのか、ゼロから開発するのか。 進行管理の体制をどこまで厚くするか、テストをどこまで丁寧にやるか。 こうした選択次第で、同じ「サイト一式」でも 2〜3 倍は変わってきます。

相場はあくまで「目安」

ですから、相場表に当てはめて「高い」「安い」を即断するのは危険です。 相場は参考値として横に置きつつ、最後は自社の予算と、そこから得られる効果で判断する。 まずは効果から考える、という順番にしておきましょう。

4. 「あまりにも安い」見積もりは要注意

極端に安い場合、3 つの可能性

相場から大きく外れて安い見積もりが出てきたら、喜ぶ前に少し立ち止まってください。 安さの裏では、たいてい次のどれかが削られています。

  • 品質:経験の浅いスタッフが担当する、テストが浅い
  • 工程:設計・テスト・進行管理が省かれている
  • 業者の経営:利益を度外視して身を削っている

「中間マージンがないので安い」の確認ポイント

フリーランスの方から「中間マージン(仲介する会社が受け取る取り分)がないので安いです」と説明されることがあります。 これは半分正しく、半分は注意が必要です。 そのぶん安いのは事実ですが、本来その費用が担っていた 進行管理・品質管理の工程 も一緒に無くなっている、という意味でもあるからです。

確認したいのは、その管理・品質チェック・窓口対応を誰が担うか です。 本人に進行管理まで任せられるなら問題ありません。ただ、デザインや実装など特定のスキルに特化した方だと、管理は発注側 — つまり担当者に回ってくることがあります。 金額は安く見えても、実は担当者の工数で払っていた、というパターンです。

利益を度外視する業者とは長続きしない

利益を度外視して仕事を取りに来る業者との付き合いも、長期では危険です。 経営が苦しくなれば、対応の融通は利かなくなり、品質も下がり、最悪の場合は事業をたたんでしまいます。 「安く取った案件が、結局いちばん高くついた」という話は、現場で何度も繰り返されてきました。

激安業者を選ぶ前に確認すべきこと

それでも安い業者を検討したいときは、最低限この 3 つを確認しましょう。

  • なぜ安いのかを正直に聞く(納得できる理由が返ってくるなら、検討に値します)
  • サポート体制と継続性(公開後の運用フェーズでも対応してもらえるか)
  • 過去案件の規模感(自社と同じ規模の案件をこなした経験があるか)

公平視点:「中間マージンが無駄な場合」もある

公平のために付け加えると、中間業者がただ間に入っているだけで付加価値を出していないケースも、実際にあります。 その場合は、フリーランスに直接頼むほうが品質も価格も合理的です。 ただしそのときは、進行管理を担当者が引き受ける覚悟とセットで、ということを忘れずに。

5. 見積もりに「含まれていないもの」よくある罠

見積書に書かれていないものは、「含まれていない」と考えるのが安全です。 特に見落としやすいのが、次のような項目です。

  • 写真・イラストの素材費(自社で用意するのか、業者が用意するのか)
  • ライティング(原稿作成、コピーライティング)
  • 本格的な SEO 対策(基本的な構造改善より先の部分)
  • サーバ・ドメインの費用
  • 公開後の保守・サポート
  • スタジオ撮影
  • コンサルティング・提案の費用

これらが含まれているのかいないのか、見積もりを受け取った時点で確認しておきましょう。 公開間際に「それは別料金です」と分かると、予算全体が崩れてしまいます。

6. 健全な見積比較の進め方

ここまでの内容を、比較の手順としてまとめると次のようになります。

  1. RFP で前提を揃える(第3章 Lesson 2)
  2. 3〜5 社で相見積もりを取る
  3. 全体費用 × Why の反映度 × 人 × 相性で総合判断する
  4. 価格は最後の調整項目にする(最初のふるいには使わない)

7. 予算が合わないときは「スコープ調整」で相談する

どうしても予算が合わないときは、項目を値切るのではなく、「予算をこの範囲に収めたいのですが、何を調整できますか?」 とスコープ(作業範囲)の相談として進めます。 今回はやらないこと・次のフェーズに回すことを業者と一緒に決め、予算の中に収めていく。「全部やってほしい、でも安く」は、交渉ではなく押し付けになってしまいます。 業者を同じチームの仲間として「この予算で最大の価値を出すには」を一緒に考えられれば、値引き交渉という言葉自体が要らなくなります。 交渉の考え方そのものは、第3章 Lesson 6 でじっくり扱います。

見積もりは、慣れないうちはどうしても「どの項目が高いか」に目が向いてしまうものです。 でも、見るべきは項目の一行一行ではなく、作りたいものに対して総額が妥当かどうか。 そこさえ押さえておけば、相場の幅や「安すぎる見積もり」にも落ち着いて向き合えます。 最初から完璧に読み解けなくて大丈夫です。総額とスコープの組み合わせで見る、という軸を一つ持っておくだけで、見積もりはぐっと怖くなくなります。