サイトの目的を言語化する — 「4 つの問い」と「決め方を決める」
この記事でわかること
- 「カッコいいサイト」は目的ではなく結果。業者に発注する前に、社内で「誰に何をしてほしいか」を決めておきます。
- 業者に依頼する前に社内で固める 4 つの問い:何を / 誰に / どう感じて / どう行動してほしいか。
- 「何」「誰」は複数あり得る(商品・会社・制度・採用)。だから 主軸を 1 つに絞る ことが先決です。
- 目的がブレるのは 「決め方が決まっていない」から。社内の決定権者と工程を先に決めることが、すべての出発点です。
第 1 章で「Web担当者はコミュニケーションを管理する人」と捉え直しました。 第 2 章はその「コミュニケーション」の中身を、社内で言語化していくフェーズです。 最初の Lesson は、すべての出発点になる「サイトの目的」の言語化を扱います。 ここを曖昧に進めると、業者選びも、デザインも、運用も、全部ブレます。
1. 「カッコいいサイトにしたい」は目的ではない
1-1. 一番やってしまいがちなのは、担当者自身
「カッコいいサイトにしたい」「オシャレに作りたい」「今っぽくしたい」 — 業者へのオリエンや RFP、キックオフ、デザイン打ち合わせで、つい口にしていませんか。 経営層や他部門から言われることもありますが、現場で一番これを言ってしまうのは、実は Web 担当者自身 です。 社内の温度感をそのまま業者に伝えてしまう、抽象的な要望を自分の言葉に翻訳しないまま転送してしまう、自分自身がデザインの好みで方向性を決めてしまう — どれもよくあるパターンです。 だから最初に直すべきは、「言われたときの返し方」ではなく、自分の口から出さないこと です。
1-2. なぜ「カッコいい」が目的にならないか
「カッコいい」は目的になりません。 理由は単純で、主観だから です。 主観で発注すると、業者にはこちらの意図が伝わらず、返ってくる提案もブレます。 社内レビューでも、人によって「カッコいい」の中身が違うため、判断が割れます。 そして完成後、社内でも業者との間でも「思っていたのと違う」で必ず揉めます。 揉める原因を作っているのは、抽象表現のまま発注した担当者自身です。
1-3. 代わりに何を決めるか
主観の代わりに、担当者自身が言語化すべきは、もっと具体的な 4 つの問いです。 「誰に / 何を / どう感じて / どう行動してほしいか」。 この 4 つを自分の言葉で固めてから業者に渡すと、サイト全体の判断基準が一気に明確になります。 詳しくは H2-2 で扱います。
1-4. 「カッコよさ」は目的の次に決まる
「カッコよさ」自体を否定しているわけではありません。 目的が決まってから、その目的を達成するためのデザイン上の選択肢として「カッコよさ」が現れる、というのが正しい順序です。 結果として、目的に沿ったデザインは自然と「カッコよく見える」ものになります。 順序を逆にしないこと — そして、その順序を 自分自身が守ること が、担当者の最初の仕事です。
1-5. 社内から「カッコよく」と言われたときも同じ順序で返す
自分が言わなくなったうえで、経営層や他部門から「カッコよくしてほしい」と言われたら、こう返します。 「カッコよさは結果です。まず誰に何をしてほしいサイトかを先に決めましょう」。 自分が同じ落とし穴に落ちないからこそ、社内に対しても順序を正す立場で話せるようになります。
2. 業者に依頼する前に、社内で固める「4 つの問い」
どんな Web プロジェクトでも、業者選定や RFP 作成に動く前に、この 4 つの問いを社内で固めてください。 答えが揃わないまま業者に投げると、提案を受け取る側のこちらが評価できず、迷走します。 まずは答えを揃えるところから始めます。
2-1. 問い 1:何を伝えたい?
商品 / 会社 / 制度 / 採用 / サービス / ブランドの世界観 — このうち、何を主に伝えるサイトなのか。 複数あり得るので、全部書き出してください。 後で主軸を 1 つに絞ります。
2-2. 問い 2:誰に伝えたい?
顧客 / 求職者 / 取引先 / 投資家 / 社内のメンバー — このうち、メインで届けたい相手は誰か。 これも複数あり得ます。 ターゲットが複数なら、それぞれを書き出してから優先順位を付けます。
2-3. 問い 3:その人にどう感じてほしい?
信頼 / 安心 / 専門性 / わくわく / 真摯さ / 革新性 — このあたりがブランディングの軸になります。 「カッコいい」のような主観表現ではなく、相手の感情として何を引き出したいかを言語化します。
2-4. 問い 4:その人にどう行動してほしい?
問い合わせ / 購入 / 応募 / 資料 DL / 電話 / 来店 / シェア — このうち、サイトの主目的になる行動は何か。 ここが定まると、Lesson 2-4 で扱う KGI / KPI が逆算できるようになります。
「何」「誰」が複数あることが多いので、まず全部書き出してください。 次の H2-3 で、主軸を 1 つに絞る作業に入ります。
3. 「主軸」を 1 つに絞る — 全部やろうとすると破綻する
3-1. 主軸の定義
主軸とは、サイトのトップから直接見せる目的 のことです。 トップページの一番目立つ場所で訪問者に何を伝えるか、何の行動を取らせるか。 ここが主軸になります。 主軸は 1 つです。
3-2. 副軸の定義
主軸以外の目的は、副軸として扱います。 副軸は 主軸を妨げない範囲で、別ページ・別動線で配置するもの です。 たとえば主軸が「サービス問い合わせ」なら、副軸の「採用エントリー」は別ページに置き、トップから別動線で誘導します。 主軸と並列に出さないのがコツです。
3-3. 主軸を見極める基準
主軸を決めるとき、次の 4 つの基準で照らし合わせてください。
- 売上貢献度:事業 KGI への寄与が一番大きいのはどれか
- 経営層の優先度:経営が今、最も期待しているのはどれか
- 期日の近さ:時間的に最も近い目標はどれか
- 関係者の期待:プロジェクトに巻き込まれている人の意識はどこに集中しているか
3-4. 主軸 2 つ並列は禁じ手
「採用も問い合わせも同等に大事」「BtoB と BtoC 両方に届けたい」 — このような主軸 2 つ並列は、サイト破綻の典型です。 訪問者は最初の 5 秒で「自分向けかどうか」を判断します。 その瞬間に複数の主軸が並列で見えると、結局どれも自分事として受け取れず、離脱します。 主軸は 1 つに絞ってください。
テンプレ DL:主軸 / 副軸整理シート(本書のテンプレ集に収録予定)
4. 「4 つの問い」を文書化するテンプレ
4-1. 書式
決まった「4 つの問い」は、次の書式で 1 文にまとめてください。 社内で唱和できる、シンプルな 1 文にするのがコツです。
「◯◯(誰) に、△△(何) を伝えて、□□(感じ) と感じてもらい、◎◎(行動) してもらう」
4-2. 良い例
実際の例で見てみましょう。
「子育て中の共働き夫婦に、自社の家事代行サービスを伝えて、安心と頼れる感じを抱いてもらい、無料体験に申し込んでもらう」
この 1 文を関係者全員で唱和できる状態になっていれば、合格です。 デザインも、原稿も、業者選びも、この 1 文を起点に判断できます。
4-3. 悪い例
一方、ありがちな悪い例はこんな感じです。
- 「みんなにうちの良さを伝えたい」
- 「カッコよく見せて知名度を上げたい」
どちらも誰がターゲットかが曖昧、何の行動を期待しているかも曖昧です。 こうした状態のままサイト構築に進むと、必ず途中で揉めます。
4-4. 対比 5 セット
「悪い言語化」を「良い言語化」に書き直す訓練を、関係者全員で 5 セットほどやっておくと、感覚が揃います。 「みんなに知ってもらいたい」→「30 代の働く女性に、自社の時短家電を知ってもらい、商品詳細ページから資料請求してもらう」のように、誰・何・感じ・行動の 4 要素が埋まる形に書き換えていきましょう。
5. 「4 つの問い」を社内で引き出すシナリオ
5-1. 経営層インタビューの台本サンプル
経営層から「4 つの問い」の答えを引き出すには、ある程度シナリオを用意しておくと進めやすいです。 「今、Web で一番達成したいゴールは何ですか?」「そのゴールに繋がる行動は、どの数字で測れますか?」「その行動を取ってもらいたい相手は、どんな人ですか?」 — このように、ゴール → 行動 → ターゲット → 感情の順で聞いていくと、答えが整理しやすくなります。
5-2. 「今すぐ答えられない」と言われた時の切り返し
経営層が「今すぐ答えられない」と言ってきたら、切り返しはこうです。 「では仮置きで構いません。後から修正できる前提で、今日の時点での仮の答えを伺ってよいですか?」。 完璧な答えを待つと、企画が永遠に進みません。 仮置きで進めながら、各打ち合わせで磨いていく姿勢が必要です。
5-3. 部門が複数あって意見が割れる時の進め方
マーケ部門・営業部門・人事部門・経営企画 — 複数の部門が関わると、4 つの問いの答えは必ず割れます。 このときは、まず部門ごとに 4 つの問いを出してもらってから、後で統合する のが現実的です。 最初から 1 つの答えにまとめようとせず、各部門の答えを並べてから優先順位を決めていきます。 H2-3 の「主軸を 1 つに絞る」のステップが、この統合の場になります。
6. ここが核心 — 目的を「ブレさせない」ために、まず「決め方」を決める
本 Lesson のもう一つの核心が、この H2-6 です。サイトの目的がブレるのには、根本原因があります。
6-1. ブレる根本原因は「決め方が決まっていないこと」
Web プロジェクトで目的がブレるのは、目的が悪いからではありません。 「誰が、どう決めるか」が決まっていないから です。 打ち合わせのたびに違う人が違う方向で意見を出し、「結局どう決まったんでしたっけ?」が繰り返される。 この状態を抜けるには、目的を考える前に 「決め方を決める」 必要があります。
6-2. 「決め方」を決める 3 ステップ
プロジェクト最初の打ち合わせで、次の 3 ステップを必ず通してください。
- Step 1:決定権者を明確にする — プロジェクト責任者は誰か、最終 GO を出すのは誰か。これが曖昧だと、打ち合わせのたびに違う人が違う判断をします。
- Step 2:決定の工程を分ける — 企画フェーズ / デザインフェーズ / コンテンツフェーズ / 公開判断 / 運用判断、それぞれの工程で「決めること」を分けます。
- Step 3:各工程の判断基準として「プロジェクトの目的」を据える — どの工程の判断も、Lesson 2-1 で言語化した目的に照らして決めます。判断基準が同じだから、ブレずに進みます。
6-3. 「決め方シート」を作って関係者全員で合意
この 3 ステップの中身を 「決め方シート」 として A4 1 枚にまとめ、関係者全員で合意してから走り始めてください。 プロジェクト最初の打ち合わせの議題に必ず入れます。
6-4. 業者との初回打ち合わせに持ち込む
決め方シートは、業者との初回打ち合わせに持ち込んでください。 「うちはこう決めます」「最終 GO はこの人が出します」と先に渡しておくと、自社にとってズレた提案や、判断基準の食い違いを大幅に減らせます。 結果として、こちらが評価できる(=社内決裁に持っていける)提案が返ってきやすくなります。
6-5. 工程ごとに「目的に照らして決定」を繰り返す
各工程の打ち合わせ冒頭で、必ず 1 分使ってこの確認をしてください。 「今日決めるのは何か」「判断基準は何か(目的に照らして)」。 これだけで、その日の議論が脱線しにくくなります。
6-6. 「進めるか進めないか」の判定基準を最後に決める
決め方の最終ステップは、「そもそも進めるかどうか」の判定基準を作る ことです。 主軸は 目的が明確かどうか(本書の核、揺るがさない)。 2 軸目は 実行可能性(体制 / 予算 / リスク許容度 / 検証可能性 / 段階移行)。 詳細は Lesson 2-6 H2-4 で扱いますが、企画段階でこの 2 軸の存在を関係者全員に共有しておきます。
「進めない」「段階で進める」「延期する」も立派な選択肢です。 最初から選択肢として用意しておくことで、無理に進めて事故るリスクを減らせます。 判定結果は文書で残し、半期ごとに見直す(Lesson 8-5 のバイタルチェックと接続)習慣にしてください。
7. 企画段階で固める「法務・個人情報・規制・アクセシビリティ」の前提条件
7-1. これらは「公開前チェック」ではなく「企画段階の前提条件」
法務・個人情報・規制・アクセシビリティ — このあたりの確認を「公開前にやればいい」と思っていませんか? 現場での実態は逆です。 企画段階で固めておかないと、業者選定・契約・ツール選定・コンテンツ作成のすべてに手戻りが入ります。 「あとで法務に確認」では遅い局面が多いのが現実です。
7-2. 業種別の規制マップ — まず自社が「どの規制圏」にいるかを確認
自社の業種が、どんな規制の下にあるかを企画段階で確認してください。 主要なものを並べると次のとおりです。
- 医療・医薬品関連:薬機法(効能効果・誇大広告の表現範囲)
- 金融・保険:金融商品取引法、貸金業法、保険業法、表示義務
- 食品・化粧品:景品表示法、健康増進法、薬機法
- 士業・教育:各士業法、表示ガイドライン、特定商取引法
- 採用:男女雇用機会均等法、年齢制限の例外要件
- 共通:景品表示法(優良誤認・有利誤認)、特定商取引法、不当景品類及び不当表示防止法
「業種規制で触りやすい表現」を企画段階でリスト化し、業者・ライターにも共有しておきます。 後から書き直しが発生するリスクを大幅に下げられます。
7-3. 個人情報の取り扱い — 「集める / 保管する / 委託する / 削除する」の 4 点セットで設計
個人情報保護法(2022 改正以降の運用)に基づき、本人同意、利用目的の明示、第三者提供制限を押さえます。 企画段階で次の 4 点を必ず整理してください。
- 取得方法:フォーム入力 / Cookie / 解析タグ / メール配信登録
- 保管:サーバ / CMS / 解析ツール / メール配信ツールそれぞれのデータ保管場所
- 委託:業者・SaaS への委託契約(SLA・暗号化・委託先管理が契約必須)
- 削除:利用目的達成後の削除手順、本人請求への対応
企画段階で「個人情報を扱うか、どう扱うか」を決めると、業者選定・契約・ツール選定の判断軸が確定します。
7-4. アクセシビリティの法的要請 — 2024 年改正で「事業者にも義務」化
障害者差別解消法 が 2024-04-01 に改正され、事業者にも 合理的配慮の提供が義務化 されました。 これまで「努力義務」だった対応が、業種・公共性・規模によっては必須対応になっています。 公共性の高いサービス(医療・教育・金融・自治体関連)は高水準、一般 BtoC でも基本水準は必須です。
国際標準は WCAG 2.2(W3C Recommendation、2023-10-05)、国内では JIS X 8341-3 と整合しています。 企画段階で「自社の対応水準」(A / AA / AAA など)を決め、Lesson 4-5 のアクセシビリティ実装に繋いでください。
7-5. AI 利用ルールの社内策定要否
サイト運用で AI を使う想定があるなら、企画段階で「社内 AI 利用ルールが必要か」を確認してください。 個人情報・社外秘情報の AI への入力可否は、企画段階で前提を整理しておきます。 詳細は Lesson 9-2「社内ルールの確認」で扱います。
7-6. 「触らない領域」を企画段階で明示する
業種規制で触れない表現、個人情報を扱わない方針、AI を使わない領域、アクセシビリティの対応外領域 — これらを企画書に明示してください。 「触らない領域」は業者・ライター・社内関係者すべてに共有し、コンテンツ作成中の事故を予防します。 不安があれば社内法務・情シス・顧問専門家に上申し、担当者単独で判断しないようにしてください(Lesson 9-2 と同じ姿勢)。
8. 目的が決まったら、次に何をする
Lesson 2-1 で目的が固まったら、次は段階的に詳細を詰めていきます。
9. やってはいけない 3 つのこと
- 「他社もやってるから」を目的にする(主体性を失う、自社らしさが消える)
- 経営層インタビューを飛ばして、現場感だけで進める(後で必ずひっくり返される)
- 目的を口頭合意で進めて文字化しない(後で必ず揉める)