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第2章 Lesson 4 / 読了 約13分

KGI / KPI の決め方 — 事業 KGI から逆算、未達を「悪」にしない

この記事でわかること

  • KPI を「事業 KGI から逆算」して決める考え方
  • ダメな KPI の典型と、数(PV)だけでなく質(滞在・回遊・CV 寄与)も見る理由
  • KPI を社内共有する前に「未達を悪にしない」文化が要るわけ
  • 「目標比 × 前月比 × 仮説」をセットで報告する伝え方

第2章 Lesson 1 で目的、第2章 Lesson 2 でターゲット、第2章 Lesson 3 で競合を整理しました。 この Lesson では、それを数字に落とす作業を扱います。 KGI / KPI の話は、Web 担当者が業者と対等に話せるようになるうえで、特に大切な領域の一つです。 数字の置き方が事業とずれると、その後の運用も事業から浮いてしまいがちなので、ここでしっかり押さえておきましょう。

1. KGI と KPI の違いをやさしく

言葉の整理

KGI(Key Goal Indicator)は「達成したい最終結果」を表す指標です。 KPI(Key Performance Indicator)は、その KGI に至るまでの「途中の通過点」を表す指標です。 KGI と KPI は、それぞれ独立して存在するわけではなく、KGI から KPI が逆算される関係にあります。

例え話

登山に例えるとわかりやすいです。 頂上に立つことが KGI、各合目を通過することが KPI です。 頂上に着くために、何合目をどんなペースで通過すべきか — このペース配分の設計が KPI 設計です。 頂上(KGI)を見ずに合目(KPI)だけ見ると、登っているつもりで違う山に向かっていた、ということが起きます。

どちらも「数字」で書く

KGI も KPI も、必ず 数字 で書きます。 「売上 1.2 倍」「問い合わせ +30 件/月」「セッション +50% 前年比」のように、達成・未達が判定できる粒度に落とします。 「ブランド価値を高める」「認知を広げる」のような言葉だけの目標は、KGI でも KPI でもありません。

2. KPI は「事業 KGI」から逆算する

サイトだけ見ても KPI は決まらない

Web 担当者が陥りがちな失敗が、サイト単体で KPI を考えることです。 「サイトのセッションを 1.5 倍に」「CVR(問い合わせや購入に至った割合)を 3% に」 — 数字としては具体的ですが、それが事業のどこに繋がるかが見えていない状態だと、追っている意味が薄れます。 サイトはあくまで 事業に貢献するためのツール です。 出発点は事業の側にあります。

逆算の 4 ステップ

事業 KGI からサイト KPI に降ろす流れは、次の 4 ステップになります。

  • Step 1:事業 KGI を 1 つ書く — 例:売上前年比 +20%
  • Step 2:達成要因を分解 — 新規獲得 / 既存維持 / 単価向上、それぞれの貢献度を割り出す
  • Step 3:サイトが貢献できる部分を抽出 — 新規獲得 → サイトからの問い合わせ拡大、など
  • Step 4:サイト KGI / KPI に落とす — 問い合わせ +30 件/月 → 必要な PV(ページ表示回数)・CVR を逆算

ひとつの例で通すと、こうなります。事業 KGI「売上 前年比 +20%」→ サイト KGI「問い合わせ +30 件/月」→ KPI「サービスページ到達率・フォーム CVR・資料 DL 数」→ 月次報告「目標比 × 前月比 × 仮説」。 このように事業のゴールから一本の線でつないでおくと、どの数字を追うべきかがぶれません。

「事業 KGI が分からない」と言われたら

社内で「事業 KGI が分からない」「経営層が答えてくれない」となったら、Web の KPI 設計を進める前に、第2章 Lesson 1(目的の言語化)に戻ってみましょう。 目的が言語化されていない事業を、サイトの KPI だけで支えるのはむずかしいものです。 順序を守るのが、結局は近道になります。

3. KPI ツリーの作り方

KGI を分解する

サイト KGI が決まったら、それを構成要素に分解します。 たとえば「問い合わせ 100 件 / 月」という KGI なら、「PV × CTR(クリック率) × フォーム CVR」のように掛け算で分解できます。 各要素が KPI 候補です。

ボトルネックを特定する

分解した各要素のうち、どこを改善すれば KGI が動くかを特定します。 PV は十分あるが CVR が低い、CVR は良いが PV が伸びない、CTR が低い — このどれかが、現状のボトルネックです。 ボトルネック以外を改善しても、KGI は動きません。

アクションに繋がる粒度まで分解

KPI を見て「明日から何をすればいいか」が分かる粒度まで落とします。 「PV を上げる」では粒度が荒すぎます。 「ブログ記事の月次公開数を 4 本に増やす」「リスティング広告の予算を月 20 万円追加する」のように、具体的なアクションに直結する粒度が理想です。

KPI ツリーは 2 軸で持つ

ここまでの手順で作った「KGI 分解 → PV × CTR × CVR」は、定量数字軸 の KPI ツリーです。 これが本書の主軸です。 ただし、定量軸だけだと、第1章 Lesson 2「Webサイトの種類と特徴」で触れた 業務支援系・定性価値系の貢献 が KPI ツリーに乗らず、副次的に扱われてしまいます。

そこで本書では、2 つ目の軸として 「業務支援 / 定性価値軸」の KPI ツリー を並列で持つことを提案します。 候補となる指標は次のとおりです。

  • 指名検索(ブランド認知の質、AI 時代に AI に奪われにくい指標)
  • 営業支援指標(商談前にサイトを見た率、営業資料 DL 数、問い合わせ前の閲覧履歴の質)
  • 採用支援指標(応募前のサイト閲覧深度、社員紹介・募集要項の閲覧、内定承諾率への寄与)
  • 既存顧客サポート指標(ヘルプページ閲覧、FAQ 解決率、解約予防への寄与)
  • 社内利用率(営業・CS が商談中に画面共有する率、社内資料としての利用度)
  • パートナー向け(取引先がサイトを介して信頼を確認する場面)

両軸とも 事業 KGI から逆算 する点は変わりません。 ただし、測り方と直接性が違います。 定量数字軸は直接的、業務支援軸は間接的・定性的です。 両軸を持つことで、料金表・FAQ・会社概要のような「PV / CVR では測れないページ」の貢献度も KPI 化できるようになります。

注意点として、全部を測ろうとしなくて大丈夫です。 自社の事業 KGI への貢献が大きい軸から、優先的に KPI 化していきましょう。

4. ダメな KPI 選定の典型

「KGI に寄与しない KPI」は KPI ではない

KPI の定義は「KGI 達成への通過点」です。 だから KGI に寄与しない数字は、そもそも KPI ではありません。 定義そのものから外れている、と捉えておくとよいでしょう。 社内で KPI として並んでいる数字を、一つずつ「これは KGI にどう寄与する?」と問い直すと、意外と「実は寄与してない」が混ざっています。

「とりあえず PV」は寄与根拠が薄い

初めて KPI 設計を担当する人に最も多いのが「とりあえず PV を増やす」というものです。 でも、PV が増えても CV(問い合わせ・購入などの成果)が増えるとは限りません。 安い検索キーワードで PV だけ稼ぐ、というトラップにはまりやすい指標です。 PV を KPI に置くなら、「PV が増えれば KGI のどこに繋がるか」を 1 行で説明できる必要があります。

「数」と「質」を両方見る

KPI は 「数」と「質」 の両軸で持ちます。

  • :PV、セッション、訪問者数
  • :滞在時間、回遊ページ数、CV 寄与、特定ページ到達率

数だけだと「来ているけど買わない」状態に気付けません。 質だけだと「絶対数が少ない」問題に対処できません。 両方を持つことで、KPI が現実の事業と接続します。

「質」の KPI 例

質の KPI として現場で機能するものを並べます。

  • エンゲージメント(滞在時間 × 回遊ページ数)
  • キラーページ(料金 / 事例 / 問い合わせ手前)への到達率
  • 指名検索数(ブランド認知の質)
  • CV パスでのアシスト貢献

判定の問い

KPI 候補をすべて、次の 1 行に通してください。 「この KPI を上げると、事業 KGI に貢献するか?」を 1 行で説明できるか。 うまく説明できないなら、その KPI はいったん見直しのサインです。 KPI から外すか、別の KPI に置き換えていきます。

5. サイトタイプ別の KPI 標準セット(参考、自社 KGI に逆算して採択)

タイプ別の KPI 標準セットを参考までに並べます。 ただし、これは 「これに従えばいい」ではなく、自社 KGI に逆算して採択する ためのリストです。

タイプ標準 KPI セット
コーポレートサイト問い合わせ数 / 採用エントリー数 / 指名検索数
オウンドメディアセッション / 記事 CV / 指名検索 / 滞在時間
ECCVR / 客単価 / リピート率 / LTV
LPCVR / 離脱率 / CPA
Web サービスMAU / 継続率 / アクティベーション率

選ぶときの目安です。LP の CPA は広告運用があるとき、コーポレートサイトの指名検索数は認知・採用の狙いが強いとき、EC の LTV・リピート率は継続購入を重視するとき、というように、自社の狙いに合うものだけ を採ります。表の全部を追う必要はありません。

CPA=1 件獲得あたりの費用、LTV=顧客が生涯にもたらす利益、MAU=月間の利用者数、アクティベーション率=登録後に主要機能を使い始めた割合です。

6. 目標数値の置き方

ベンチマークの取り方

目標数値は、業界平均・自社の過去実績・競合観察(第2章 Lesson 3 で集めたもの)の 3 つから当たりを付けます。 自社実績は 直近 3〜6 か月の平均 を基準に置くと、季節変動に振り回されにくくなります。 完全に当てる必要はなく、「これくらいなら現実的か」という肌感覚が持てれば十分です。 社内に出すときは「なぜこの数字か」を 1 行添えると、目標の納得感が上がります。

難易度感覚

伸び率の感覚をざっくり示すと、次のようになります。

  • 1.2 倍:現状改善で達成可能
  • 1.5 倍:やや背伸び、新規施策が必要
  • 2 倍:構造変更が必要、半年〜1 年仕事

「行ける数字」を置く罠

「達成しやすい数字」を目標にしたくなる気持ちは分かります。 でも、達成しやすい数字を置くと、結局事業に貢献しません。 KGI が動かないからです。 「達成しないと事業に効かない数字」を、現実的な範囲で置く。 そこの覚悟が KPI 設計の品質を決めます。

7. KPI を社内共有する前に「未達を悪にしない」文化を作る

未達 = 失敗、ではない

KPI を社内に展開する前にやるべき、もう一つの大事な作業があります。 「未達は悪ではない」 という認識を、社内で共有することです。 事業 KGI を本気で追うなら、未達は必ず起きます。 起きないということは、目標が低すぎるのです。

未達の扱い方を社内で先に合意

未達が出たときの扱い方を、KPI 共有前に文書化しておきましょう。 「未達を責めない、原因を一緒に考える」を社内ルールとして明文化します。 こうすると、未達報告のときに担当者が言い訳をせず、本音で原因を語れる空気ができます。

これが無いと起きること

未達を悪にする文化のままだと、次のような事態が連鎖して起きます。

  • 担当者が達成しやすい KPI に逃げる
  • 数字を盛る、または都合よく解釈する
  • 報告で本音が出なくなる、表面的な議論しかできない
  • 結果として改善が止まり、KGI も達成できなくなる

経営層・上司を巻き込む

「未達 = 改善の糧」という認識は、担当者だけが持っていても機能しません。 経営層・上司まで巻き込んで、KPI 共有前に握っておきます。 ここが握れていないと、未達報告のたびに経営層から詰められ、誰も本音で数字を語れなくなってしまいます。

「悪にしない」と「緊張感」を両立させる

一方で、「未達を悪にしない」は「未達を許容して何もしない」「責任を曖昧にする」とは違います。 ここを混同すると、KPI が形骸化して事業 KGI に貢献しないチームになります。健全なラインは次の 3 点です。

  • 責任は追及しない、ただし責任の所在は明確にする — 誰が動くべきかを曖昧にしない
  • 未達を罰しない、ただし原因は一緒に分析する — 放置はしない
  • 達成も未達も同じ熱量で振り返る — 達成だけ祝うと甘くなり、未達だけ責めると気持ちが続かない

「未達を悪にしない」は責任を曖昧にする免罪符ではなく、健全な改善文化を作るための前提条件 です。ここは取り違えないようにしておきましょう。

8. KPI を社内に共有するときの 3 つの工夫

数字は「目標比 × 前月比 × 仮説」セットで出す

「今月 1,000 PV」だけの報告では、誰も判断できません。 「目標 2,000、前月 800、原因は新規ブログ公開ペースの遅延、来月の打ち手は ◯◯」 — このように、目標比・前月比・仮説をセットで出してみましょう。 これだけで報告の質が一段上がります。

グラフで時系列を見せる

経営層・上司は数字の羅列より、グラフで時系列を見るほうが反応してくれます。 KPI を視覚化して、推移が一目で見える状態にしておくとよいでしょう。

「この数字が上がると ×× に貢献」を 1 行で添える

KPI を見せるよりも、貢献 を見せるほうが社内の納得を得やすいです。 「この問い合わせ数の増加は、年間売上 +500 万円相当」のように、数字の意味を 1 行添えると、KPI が事業の文脈に乗ります。

9. KPI を「作って終わり」にしない運用

KPI 設計でいちばんありがちな落とし穴が、「シートを作って満足」してしまうことです。 運用に乗せる仕組みを、最初に組み込んでおきましょう。

  • 月次レビューで「数字 → 仮説 → 次のアクション」を回す
  • 四半期で目標値・KPI 構成を見直す
  • 半年で KPI 自体の妥当性をレビュー(事業 KGI が変わったら必ず再設計)

KGI / KPI の設計は、最初から完璧に組もうとすると手が止まりがちです。 まずは事業 KGI を 1 つ書き、そこから逆算してサイトの KPI をいくつか置いてみる — それだけでも、数字の話が事業とつながり始めます。 回しながら直していけば十分なので、肩の力を抜いて、自社にとって意味のある一歩から始めてみましょう。